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東京地方裁判所 平成5年(ワ)10160号 判決 1994年7月19日

原告

宮本信雄こと崔順成

被告

高松市場運送株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告に対し、金七一六万五六一六円及びこれに対する平成元年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告らは、各自、原告に対し、金二三四八万五二四三円及びこれに対する平成元年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告らの負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、名神高速道路上で大型貨物自動車が普通貨物自動車に追突したため、普通貨物自動車の運転者が、大型貨物自動車の運転者及び保有者に対し人損について賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  本件交通事故の発生

事故の日時 平成元年一二月一二日午後二時二五分ころ

事故の場所 滋賀県坂田郡山東町柏原地先、名神高速道路下り線三九六・七キロポスト

加害者 被告木下雅俊(以下「被告木下」という。加害車両を運転)

加害車両 被告高松市場運送株式会社(以下「被告会社」という。)所有の大型貨物自動車(香川八八か二〇四一)

被害者 原告。被害車両である普通貨物自動車(滋一一て一一六)を運転。

事故の態様 前示高速道路において、被告木下運転の加害車両が被害車両に追突し、その結果、被害車両は付近のガードワイヤーを破り、約三メートル下の高速道路の法面下に落下した。

事故の結果 原告は、腹部打撲、外傷性小腸穿孔、頭部外傷Ⅱ型、顔面打撲挫創の病名の傷害を受けた。

2  責任原因

被告木下は、加害車両を運転中、前方安全確認を怠つて被害車両に追突したから民法七〇九条に基づき、また、被告会社は、加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していたから自賠法三条に基づき、それぞれ本件事故について損害賠償責任を負う。

3  損害の填補

被告らは、原告に一五万円を支払つた。

三  本件の争点

本件の争点は、原告の受傷の程度及び損害額である。

1  原告の主張

原告は、本件事故による腹部打撲等のため、神経障害を来たし、また、臓器障害の後遺症が残つた。神経障害は、内耳及び内石器の障害によるめまい等の症状を残すものと、硬膜下血腫による頭痛等を残すものがあり、前者の神経障害は自賠法施行令別表の後遺障害別等級表九級一〇号に(以下においては、単に等級のみを示す。)、後者のそれは一二級一二号にそれぞれ該当し、これらを総合すると九級相当の神経障害を残す。また、臓器障害は、小腸狭窄の障害であつて、一一級一一号に該当する。

このため、原告は次の損害を受けた。

(一) 治療関係費 七七万七二二〇円

治療費(原告負担分)五万五五八〇円、文書料一万四九八〇円、付添費八万一〇〇〇円、入院雑費三万三六〇〇円、器具購入費一万〇三〇〇円、交通費五八万一七六〇円の合計である。

(二) 逸失利益 八三〇万三七九〇円

原告は、有限会社宮本建設の取締役であり、兄の崔順完と林野業の共同事業を営んでおり、就労が可能であつたことから、平成四年度の賃金センサス六五歳男子の平均月額三〇万五九〇〇円を基礎とし、後遺障害による労働能力喪失率三五%、就労可能年数八年(ライプニツツ係数六・四六三二)として、三〇万五九〇〇円×一二×三五%×六・四六三二の計算により算定した額である。

(三) 慰謝料 一二二七万四二三三円

入通院慰謝料三三九万四二三三円と後遺症慰謝料八八八万円の合計額である。

(四) 弁護士費用 二一三万円

2  被告らの主張

原告は関ケ原病院及び高山赤十字病院で治療を受け、本件事故により受けた傷害は、平成三年一月三一日に完治している。その後の治療は心因性の高いものであり、本件事故との因果関係を否認する。仮に小腸狭窄と本件事故との間に因果関係があつても、原告が主張する程度の後遺障害には当たらない。因みに、自賠責保険で非該当との認定がされており、原告主張の損害は、過大なものか、因果関係がないものである。

第三争点に対する判断

一  原告の治療経過等について

1  甲一の1ないし4、二ないし一一、一二の1、2、一三、三一、三四、三五の1、2、三六ないし三九、四〇の1、2、四一の1ないし7、四二の1ないし10、四三ないし四七、乙一の1ないし3、二ないし四の各1、2、五、六の1ないし19、原告本人に前示争いのない事実を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 原告は、宇都宮市内に家族を持ち、その兄崔順完の経営する有限会社宮本建設の取締役に就任する傍ら、兄順完と林野業の共同事業を営んでいた。このため岐阜県の現場で材木の伐採等を行い、本件事故のあつた平成元年一二月一二日、同事業に関して被害車両を運転し、名神高速道路を走行していたところ、加害車両の追突に遇い、被害車両は、前方左のガードワイヤーを破り、約三メートル下の高速道路の法面下に落下した。原告は追突による後方からの強いシヨツクを受けて意識を失い、救急車で関ケ原病院に運ばれたときも意識混迷状態であつた。

(二) 原告は、事故当日から平成二年一月八日まで合計二八日間、関ケ原病院において腹部打撲、外傷性小腸穿孔、頭部外傷Ⅱ型、顔面打撲挫創の傷病名で入院治療を受けた。同病院では、腸管破裂による汎発性腹膜炎の疑いで開腹手術を受けたところ、小腸に穿孔が認められたが、手術後の経過は良好であつた。また、原告は、事故直後から頭痛、めまい、耳なりがあつたが、頭痛は脳神経学的に左前頭葉部の硬膜下血腫が原因となつていることが判明した。しかし、血腫の厚さが比較的少ないため、自然吸収を待つ経過観察とされた。また、めまいについては、頭位変換時、右向き水平眼振が認められ、内耳、耳石盤の障害と考えられる良性発作性頭位性めまいと診断されたが、注射投薬により軽快していつた。なお、平成元年一二月二一日における聴力の検査の結果、原告は、左耳四〇デシベル、右耳四六・七デシベルの感音性難聴と診断されている。

(三) 原告は、関ケ原病院退院後、高山の飯場で留守居をしたり、時々宇都宮の自宅に戻つたりしていたところ、平成二年一月一九日から同年五月三一日まで、及び同年一〇月一日から平成三年一月一八日まで、現場に近い岐阜県高山市の総合病院高山赤十字病院の脳神経外科に頭部外傷性愁訴や外傷性小腸穿孔の傷病名で通院した(通院実日数一三日)。初診時には頭痛、頸部痛、めまい等の不定愁訴があつたが、薬物療法により症状が軽快していつた。同病院では頭部のX線撮影やコンピユーター断層撮影をしたが、特記すべき異常所見はなく、これらの不定愁訴のみが継続することから、平成三年一月三一日に症状固定と診断された。同病院では、原告は腹部痛を訴えたことはなく、原告の腹部の治療は行われていない。なお、原告は、高山病院通院中に、医師の勧めはなかつたが、知人から聞いて平成二年九月から平成三年一月まで岐阜県大野郡の平瀬温泉で湯治治療を受けた。

(四) 原告は、高山赤十字病院の治療終了後も、特記すべき程の腹痛はなかつたが、平成三年二月ころから腹部がひどく痛むようになり、同月二三日から同年三月四日まで宇都宮市にある済生会宇都宮病院において、消化管癒着及びこれによる腹痛のため通院した。同年九月二一日も腹部症状があり、気管支炎のため通院してた椎名内科クリニツクで注腸検査を受け、投薬療法を受けた。平成四年四月一日から同年五月六日まで、再び済生会宇都宮病院に腹痛のため通院し、さらに、平成四年一一月二日も腸の異常を訴えて同クリニツクで治療を受けた。しかしながら、なおも腹部膨満感、腹痛がするため、原告は、平成四年一一月一三日から同月二一日まで関ケ原病院に精密検査目的のため入院した。右同日の診断では、小腸造影の結果、小腸の口側(一二指腸側)から一五センチメートル程度のところに狭窄所見が認められた。右狭窄は、穿孔性腹膜炎による癒着が原因となつたものであつて、本件事故による後遺症であると診断され、また、症状固定の日は右同日と診断されている。その後も原告は、腹痛を我慢することができない時があるので、倉持病院に通院している。

(五) 原告は、高山赤十字病院の治療にかかわらず、耳なりやめまいが治らないため、平成三年六月二七日、椎名内科クリニツクで診察を受け、頭痛、めまい用の投薬治療を受けた。そして、同クリニツクの紹介で、CT検査のため平成三年一〇月一五日、栃木県河内郡南河内町にある自治医科大学付属病院で耳なり、難聴の疾患の診断を受けたところ、神経学的に左右の瞳孔不同、頭部CT上右側頭葉に低吸収域を認められたが、本件事故との関係は時間的経過のため不明とされ、頭部外傷性後遺症と診断された。また、同年一一月二五日から平成四年一月二八日まで宮川内科に通院治療を受けたところ、CT上脳萎縮像と蜘蛛膜下膿包が認められたため、投薬療法が行われた。さらに平成四年四月一三日済生会宇都宮病院脳外科で診療や検査を受け、近所の人の紹介で平成三年五月から漢方薬を飲んでいる。原告は、本件事故前は聴力の減退等の耳の異常を感じたことはなかつたが、栃木県から両耳の語音明瞭度五〇%以下であることを理由に四級の身体障害者と認定され、平成四年八月一三日に身体障害者手帳を交付されている。もつとも、普段は補聴器を使用しておらず、また、原告本人尋問においても、補聴器を使用することなく尋問に応じている。

(六) なお、原告は、本件事故前に胃潰瘍のため胃の三分の二を切除術を受けていたり、狭心症によるものと思われる左胸痛があり、宮川内科などでこのための治療も受けている。

以上の事実が認められる。

2  右認定の事実に基づき、原告の本件事故による傷害の内容及び程度を検討する。

まず、小腸狭窄について検討すると、原告は、関ケ原病院において小腸穿孔のため開腹手術を受けており、平成三年二月には済生会宇都宮病院において消化管癒着による腹痛の存在が診断され、また、平成四年一一月二一日における関ケ原病院の診断でも小腸狭窄は穿孔性腹膜炎による癒着が原因となつたと診断されているのであつて、小腸穿孔による汎発性腹膜炎が原因で小腸狭窄となつたことは明らかである。そして、甲一二の1、2、四五ないし四七によれば、小腸に狭窄がある場合には、狭窄部に食べ物を通過させるため、口側の腸管蠕動亢進が起こつて腹痛を自覚し、その腹痛は、軽度であつても持続すると仕事ができない程度のものであること、特に、原告の狭窄部位のように当該部位が口側に近いほど全身的影響は大きく、悪心、嘔吐、腹痛が強いものと考えられること、腹部の膨満感も消化管内に食べ物が多量に停滞したときに生じること、小腸に狭窄がある場合には腸閉塞症状が時々発現し、そのときは、労働が不能の状態となることが認められるのであつて、これらのことに前示の原告の症状を総合すると、関ケ原病院を退院してからは約一年間、腹部の痛みにより病院の検査等を受けていないものの、平成三年二月ころから腹部がひどく痛むようになつて病院通いを繰り返すようになつたのであり、原告の腹痛は、被告が主張するように単に心因性によるものではなく、本件事故が起因して生じた小腸狭窄が原因となつているものと認めるべきである。

そして、原告の右小腸狭窄は、腸閉塞も誘発し得る程度のものであり、かつ、その部位に照らし、電解質異常、水分異常などが強度でシヨツク状態となり易いものであること(甲一〇、四六により認める。)に照らすと、それが起因する腹痛が常時生じるものでないとしても、一一級一一号(胸腹部臓器に障害を残すもの)の後遺障害に該当すると認めるのが相当である。

3  神経症状についてみると、前認定のとおり、原告には本件事故により左前頭葉部の硬膜下血腫が原因となつた頭痛、頭位変換時における右向き水平眼振及び内耳、耳石盤の障害と考えられる良性発作性頭位性めまいが存在したが、関ケ原病院や高山赤十字病院における薬物療法により症状が軽快し、高山赤十字病院における頭部のX線撮影やコンピユーター断層撮影では特記すべき異常所見はなく、平成三年一月三一日に症状固定と診断されたのである。そして、宮川内科で診断された脳萎縮像と蜘蛛膜下膿包の部位が証拠上不明であることから、関ケ原病院で認められた左前頭葉部の硬膜下血腫は高山赤十字病院通院時には既に消失したと認めるのが相当である。なお、平成三年一〇月一五日、自治医科大学付属病院でCT検査を受けたところ、神経学的に左右の瞳孔不同、頭部CT上右側頭葉に低吸収域を認められ、頭部外傷性後遺症と診断されているが、前示硬膜下血腫の部位とは異なつている上に、この低吸収域は、関ケ原病院の検査において認められなかつたものであるから、本件事故との因果関係を認めるのは困難である(自治医科大学付属病院でも、本件事故との関係は時間的経過のため不明とされている。)。もつとも、本件事故の態様によれば、原告の頭部にかなりの外力が加わつたことが明らかであり、医学的にも、事故後において左前頭葉部の硬膜下血腫があつたことは、その後の原告の頭痛の原因となるものと考え得ることや(甲一二の2により認める。)、右側頭葉の低吸収域の存在は頭痛の原因とならないことから(甲三六により認める。)、原告には本件事故による左前頭葉部の硬膜下血腫が原因となる頭痛の後遺障害があると認めるのが相当である。

そして、右の点に、本件事故直後には頭位変換時における右向き水平眼振及び内耳、耳石盤の障害と考えられる良性発作性頭位性めまいが存在したが、これらは、軽快し、高山赤十字病院では他覚的な所見はなくなつており、主として不定愁訴のみがあるに止まるものであること、原告には本件事故が原因となつた難聴があること(原告には本件事故前には難聴の兆候はなかつたが、本件事故後間もない時点での診断で難聴が判明していることから、難聴と本件事故との間に因果関係があると認められる。もつとも、原告の聴力レベルが左耳四〇デシベル、右耳四六・七デシベルであることや、原告本人尋問において補聴器を使用することなく尋問に応じていることを総合すると、その程度は比較的軽微なものであるということができる。)を総合すると、これら頭痛、めまい、難聴等を総合して、一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)の後遺障害を残すと認めるのが相当である。

4  以上を総合すると、原告は、本件事故により、併合一〇級の後遺障害を残したことが認められる。

二  原告の損害額

1  治療関係費

(一) 治療費 四万七五三六円

甲一四の1ないし4、一五、一六、一七の1ないし9によれば、原告は、関ケ原病院に二万五四六〇円、椎名内科クリニツクに一万八五五〇円、宮川内科に五五八〇円、済生会宇都宮病院に五九九〇円を支払つたことが認められるが、このうち椎名内科クリニツクと宮川内科については私病の気管支炎や狭心症の治療も受けていることから(甲七、八、三四、三五の1、2により認める。)、同クリニツク等に対する支払分のうち、その三分の二を本件事故によるものと認める。他の病院の支払分については、前示通院等の経過から、本件事故と相当因果関係のある支払いと認める。

(二) 文書料 一万四九八〇円

甲一八ないし二一によれば、原告は、関ケ原病院等の診断書や事故証明書取得のため、少なくとも原告が主張する一万四九八〇円を要したことが認められる。

(三) 付添費(そのための交通費も含む。) 九万八〇〇〇円

甲二四、原告本人によれば、原告が事故直後関ケ原病院に入院中、その妻が付添いのため、四回にわたり宇都宮と関ケ原を往復し(合計一八日間。付添い費は一日四五〇〇円の割合として八万一〇〇〇円)、その交通費として一一万五二八〇円を支払つたことが認められる。原告の前示傷害の程度に照らし、このうち九万八〇〇〇円を本件事故と相当因果関係のある支払いと認める。

(四) 入院雑費 三万三六〇〇円

原告は事故直後関ケ原病院に二八日間入院したところ、その間の雑費を一日当たり一二〇〇円として、合計三万三六〇〇円と認める。

(五) 器具購入費 一万〇三〇〇円

甲二二によれば、原告は、関ケ原病院に入院中、紙オムツやバスタオル等のため、一万〇三〇〇円を支出したことが認められる。

(六) 交通費 六万一二〇〇円

原告は、宇都宮から高山赤十字病院に通院のため合計三九万五二八〇円を支出したと主張し、甲二三及び原告本人はこれに沿うが、前認定のとおり、原告は、高山赤十字病院通院時は、同病院の付近の飯場で留守居をしていたのであり、右各証拠によつても、右通院費用は認め難い。

前認定の事実によれば、原告は平成四年秋に関ケ原病院に入院したのであり、その交通費往復二回分六万一二〇〇円(甲二三により認める。)は、本件事故と相当因果関係のある支払いと認める。

2  逸失利益 なし

原告は、有限会社宮本建設の取締役であり、兄の崔順完と林野業の共同事業を営んでおり、同事業に関してトラツクを運転していたのであつて、本件事故当時就労が可能であつたことは明らかである。そして、原告本人によれば、本件事故後は、めまい等のため、車の運転を中止し、現在は就労せず、子ども達に養つてもらつていることが認められる。しかしながら、原告は本件事故前の収入状況を一切主張立証しないため、本件事故による後遺障害のため原告の収入がどの程度減益したかを知ることができない。

また、原告は前記の後遺障害を残したことから、これら後遺障害のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるが、小腸狭窄による腹痛は、原告が腹痛を訴えて病院を訪れる頻度に照らせば、常時起きるものではないこと、局部神経症状の後遺症については本件事故からの時間の経過とともに他覚的症状は認められず、両耳の難聴についても通常は補聴器をつけることを要せず、いずれも比較的軽微であること、原告の職種(本件全証拠によるも、トラツク運転や材木伐採の飯場業務に従事していたことしか認められない。)及び年齢(一般に労働可能年齢は六七歳といわれているところ、原告は症状固定時の平成四年一一月二一日には六七歳であつた。)を考慮すると将来これら後遺障害によつて収入の減少を来す蓋然性に乏しいことを総合すると、労働能力喪失自体を理由とする逸失利益を認めるのも困難である。なお、この点は慰謝料で斟酌することとする。

3  慰謝料 六四〇万円

本件事故の結果、原告は、外傷性小腸穿孔、頭部外傷Ⅱ型、顔面打撲挫創等のため、平成元年一二月一二日から平成二年一月八日まで、関ケ原病院に入院し、その後、高山赤十字病院、椎名内科クリニツク、済生会宇都宮病院等に通院し、また、関ケ原病院に検査入院したこと、その他本件に顕れた一切の事情を斟酌すると、通院慰謝料(傷害慰謝料)としては八〇万円が相当である。

また、前認定判断のとおり、原告は本件事故により一一級一一号の腹部臓器及び一二級一二号の局部神経症状各後遺障害を残していること、もつとも、小腸狭窄による後遺障害は常時起きるものではないこと、右各後遺障害の存在を理由に逸失利益の喪失を認めなかつたが、慰謝料としては斟酌するのが相当であることを総合すると後遺症慰謝料としては五六〇万円が相当である。

4  損害の填補

以上合計の損害金は六六六万五六一六円となるところ、被告らが原告に対し一五万円を支払つたことは当事者間に争いがないから、残額は六五一万五六一六円である。

四  弁護士費用

本件の事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑みて、原告の本件訴訟追行に要した弁護士費用は、金六五万円をもつて相当と認める。

第四結論

以上の次第であるから、原告の本件請求は、被告らに対し金七一六万五六一六円及これに対する本件事故の日である平成元年一二月一二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。

(裁判官 南敏文)

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